常温核融合の真実―今世紀最大の科学スキャンダル

科学に光と影があるなら、常温核融合は影のほうの話だ。この本では、常温核融合の初期の研究が気の毒なほど、ホイジンガによって、コテンパンに批判されている。しかし、それでも常温核融合の研究は今でも続いている。なぜだろうか？世界中にたくさんいる科学者のうちで、めぐまれた環境で研究しているのはごく一部でしかない。そのうちノーベル賞をとれるのは、さらにごく一部で、天才と呼ばれ、歴史に名を残すのは、さらにごくごく一部にしかすぎない。科学者の多くはごく平凡なオッちゃん、オバちゃんにすぎないのだ。歴史の表舞台でスポットライトをあびるチャンスなんてほとんどない。そういう大勢の「普通」の科学者の一部にとって、常温核融合は、とても魅力のある禁断の果実なのだろう。たいして頭も使わず、単純で安価な実験を行うだけで、もし仮にそれが本当だと証明できれば、歴史に名を残す大発見になるからだ。（しかし、世の中はそんなに甘くない）科学者の多くは善良で素朴な人たちだと思う。しかし、一部にはどうしても禁断の果実の魔力に負けてしまう人もいるということだろう。科学者も人間である以上、一攫千金をねらってパスカルの賭けに手を出すこともあるということだ。フライシュマンとポンスの初期の実験は極めていいかげんなもので、再現性もなかった。それでもまだ常温核融合の研究を行っている科学者がいる。そのうち、常温核融合は実現するのだろうか？その可能性もゼロではないだろう。しかし、ホイジンガの著書を読む限り、肯定派の主張には大きなバイアスがかかっているようだ。つまり、肯定的な実験ばかりに注目し、否定的な実験は無視するという態度だ。バイアスの排除にまじめに取り組むという点においては、常温核融合の研究よりも超心理学のガンツフェルト実験等のほうが公平かもしれない。